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雪山の入り口と愉しみ方。自然から学ぶ想像力と遊びごころ
旭 立太 雪山の醍醐味

 

デナリ頂上からの滑走
2019.11.22

山岳ガイド、旭立太さんは、通常のガイド業を営む一方で、2015年にはアメリカのデナリ山頂からのスプリットボードでの滑走や、厳冬期の南アルプスの未滑走エリアを滑るなど、チャレンジしている。
「べつにそんなにすごくはないんですよ」

デナリ滑走のときのことを質問すると、謙遜する風でもなく、淡々と話す。

「アマチュアの人も結構やっていることなので、雪山登山やっている人間からするとそこまで大変じゃないんです。ノーマルルートならクライミング要素が強くないので、冬の穂高の稜線に上がれるレベルだったらいけます。もちろん天候次第ですけど」

このデナリが旭さんにとって、初の海外の山だったという。

「自分たちだけで完結する山が良かったんです。だから情報もある程度揃っているデナリが良いかなという、割と軽いノリでした」
テントを含めた全装備をバルトロと190Lのスタッシュダッフルに詰め、ソリで引っ張って登った。アプローチを含めると全行程で約20日。
「ハイクアップしながら、斜面の状況を見て、滑りのラインをイメージするんです。もちろん当たる時もあれば、イメージ通りにはいかないこともあるんですが、それも含めてバックカントリーの醍醐味です。そのときは、雪の状況があまり良くなくて、滑ったというよりは下りてきたという感じ。5,000mを超えると、呼吸がもたないんですよ。滑ってるときって無呼吸状態に近いので、3ターン目くらいでもう息が続かない。心臓もバクバクです。でも、デナリのロケーションは最高でしたし、偶然スノーボード界のレジェンド、ジェレミー・ジョーンズに会うこともできましたし、最高の経験でした」
想像力のある山登りを
冬場のガイド業としては、バックカントリーでの滑走の他にも、冬山登山などもガイディングしている。「これから冬山登山を始めたい人になにかアドバイスは?」と聞くと、少し考えてから「垣根をあまりもうけないことでしょうか」と答えた。

「冬山というと構えてしまう人も多いかもしれないですが、夏の山が好きだったら、冬山も好きになれるはずなんです。道具や技術は必要になってきますが、基本的に登山の技術というのは、雪山を登るために進化してきている部分があるんです。だから、そういうものを雪山で学べば、夏山での安全性も上がりますし、登山にもっと広がりが出ると思います」

地形や植生などについても、より深い知識を、実感を伴って知れることも雪山の魅力だという。

「日本の場合、冬型の気圧配置になると北西から強い風が吹くので、北西側の斜面にはあまり木々が生えていないんです。逆に東側は風が当たらないので、積雪量は多い。冬の間に積もった雪が、春になって溶けることで浸食するので、西側に比べると、東側のほうが急峻な地形になりやすい。雪のある時期に山を歩くと、そういう目線が得られるというのが一番楽しいところかもしれません。これはあくまでも一例で、他にもたくさんの発見が雪山には隠されています。日帰りの低山ハイクでも、それは同じなので、そのあたりから始めると良いかもしれませんね」
もうひとつは、着実に経験を重ねていくのが大事。ゲームをクリアしていくように、次々に難易度を上げていくのではなく、ひとつひとつをしっかりと体感して、自分のものにしていくことが冬山登山には必要だと旭さんは言う。
「いまはインターネットで様々な情報を得ることができます。たしかに情報があると便利なんですが、それに頼りすぎると想像力がなくなっていきます。山登りの楽しさは、想像することも含まれると思うんです。実際に行ってみたら想像と違うことは多々ありますが、その違いが楽しい。後になって印象に残るのは軽い失敗談だったりします。でも誰かが行ったルートをネットで確認して、それをなぞるだけでは、それはあまり得られませんよね。自分でイメージすることが、密度の濃い実体験に繋がると思います。トライアンドエラーは大切だし、それも山登りの楽しみのひとつですよね」
想像力のともなった山登り。それをすれば、別に凄いところに行かなくても、低山だって十分に楽しめるはずだというのが、旭さんの考え方だ。

「そういう想像をするためには、さっきの地形や植生の話のように、いろいろと知識や観察眼が必要になってくるので、楽しみながら、そういうヒントを得られるようなガイディングを心掛けています」

それと同時に、旭さんが雪山に入る時に意識しているのは“ビギナーの気持ちを忘れないこと”だという。

「ルーティンになってくるとヒューマンエラーが絶対でてきます。それを防ぐには、常に初心で臨むこと。積雪というものはここからここは絶対に安全で、ここからは危険というようなものじゃないんです。白黒じゃなくて、灰色なかんじ。わからないから、どこでリスクマネージメントをするかが重要になってきます。やめる判断はもちろん、エスケープできる地形を探しておいたり、バックアップのプランも用意します。それは自分のホームグラウンドでも一緒。慣れれば慣れるほど危ないと思っています」

自然にはかなわないという謙虚な気持ちは、旭さんが大切にしている心構えだ。自然の中で遊ばせてもらっているわけだから、最優先すべきは自然の都合。そういった自然の都合と上手に折り合いをつけることもガイドの重要な仕事だと、旭さんは考えている。

「たとえば忙しい合間で遊ぶとすると、どうしても人間の都合を優先したくなるんですが、それは山では関係がないんです。たとえ登りたい、滑りたいと思っても、コンディションによっては滑ってはいけない時も当然あります。でも滑りたい。それなら別のプランを立てる必要があります。時間とコンディションの兼ね合いを見極めて、その時の最良の場所に案内をするのが、僕の仕事だと思っています」
となると、フィールドの引き出しはたくさん持っていないといけないですね、と聞くと「だからいっぱい遊びにいかないといけないんですよ」と、旭さんは楽しそうに笑った。
滑るということを突き詰めた形
道具を選ぶ基準としては、見た目などではなく、使うことを最優先されているもの。作り手のコンセプトが明確にある、意志のある道具が好きです。
このターギーはまさにそんな存在ですね。赤石岳を滑った時に持っていったんですが、軽さと耐久性のバランスが非常に良いと感じました。GREGORYのバックパック全般に言えることなんですが、背負うというよりは着るという感覚があります。バックパックとの一体感があるので、滑るときにもストレスがないんです。特に僕の場合はスノーボードなので、斜面に対して横を向いて滑るので、この一体感はとても重要です。バランスが悪いとターンの度にストレスを感じてしまうんですが、このターギーならそういうことはなく、快適なライディングが楽しめますね。

フレームがけっこう捻れるのも良いですね。ライディング中もこの捻れがあるから、いろんな体勢になっても、フィット感が損なわれない。重い荷物を背負ってもバランス良く滑れます。
 
細かい点で言えば、トップリッド(雨蓋)のストラップの長さを調整できるようになったのは、うれしいですね。これによって、かなりの荷物を収納できるようになったので、オーバーナイトのトリップでも使えるようになりました。逆に荷物が少ない時は、トップリッドを外せば、アルパインザックのような使い方もできます。
ギアラックの付き方なども年々アップデートされていて、本当に使っている人が開発しているんだなと感じるのもこのバックパックを愛用する理由のひとつです。

バックパックは荷物を詰め込むだけのものじゃなく、同時に動けないと意味がない。このターギーは、高いレベルでそれを実現しているモデルだと思います。
※トップリッド付きは45Lのみ
Text:TAKASHI SAKURAI Photo:YUSUKE HIROTA