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木曽路の歴史を紐解く
街道歩きの楽しみかた
街道のセクション歩きにちょうど良いバックパック『ナノ』

 

2024.05.24

東海道、中山道などの五街道をはじめとした旧街道を徒歩で旅する「街道歩き」。宿場町や峠道を歩きながら、土地ならではの歴史や文化、風景に出合うことができ、近年では外国人観光客にも人気が高い。
木曽路と風情ただよう11の宿場
江戸を中心に制定された五街道のひとつ中山道は、日本橋から京都の三条大橋を内陸経路で結んだ街道だ。その中山道のほぼ中間に位置し、急峻な谷あいを縫うように走る木曽路には、中山道六十九次のうち、北は贄川宿(にえかわじゅく)から南は馬籠宿(まごめじゅく)まで11の宿場がある。
歩くことで生々しく実感できる
今回、東北・出羽三山を拠点に執筆や創作活動をおこなう坂本大三郎さんと木曽路を歩いた。坂本さんは、著書に「山伏と僕」や「山の神々」等があり、自然と人の関わりの中で生まれたものに関心を持ち、日本各地、海外にも足を運んでいる。
「ある芸術祭で、道を歩くこと、それ自体を作品にしました。自宅のある山形から奈良の大峰山まで、全部歩くのが目的ではなく、途中まででもいいので道を歩こうと。西行や松尾芭蕉などが歩くことで自然と対峙し芸術を生み出しました。移動する生き物ということで人間はホモ・モビリタスとも呼ばれますが、やはり歩くという行為は人間の文化的行為と深く結びついているんだと考えています。歩くと、坂の勾配や道の佇まいなどを生々しく実感できますよね。スマホで調べて情報だけを知るのと、体験とともに知るのとでは大きな差があるんじゃないでしょうか」
坂本さんに同行し、今回の記事執筆を担当したのは木曽暮らし6年目の私、坂下佳奈。宿の運営をしながら地域の情報発信に携わっている。
移住当時の木曽に抱く新鮮な感情が思い出せなくなってきた今思うことは、島崎藤村の「夜明け前」の有名な書き出し『木曽路は全て山の中である』というのは、なんと的を射た表現なのだろうと。昔も今も変わらず、道も含めて木曽の人々の暮らしは、山深い圧倒的な自然と共にある。有名なこの言葉を頭の片隅に置きながら、木曽路歩きで身をもって実感してほしい。
それぞれに特徴をもつ宿場町
街道の拠点となった宿場は、それぞれに特徴を持ち、規模や景観も異なる。木曽路の11の宿場から規模が大きく人気も高い3つの宿場を紹介しよう。

日本最長の宿場町である奈良井宿(ならいじゅく)は、江戸時代の面影をよく残した町並みで、南には中山道屈指の難所、鳥居峠が控えている。峠越えに備えて宿をとる旅人が多く、最も栄えた宿場とも言われた。約1km続く宿場には、千本格子の美しい民家や旅人がのどを潤したであろう水場が今も点在する。
地域ぐるみの町並み保存運動が全国に先駆けて起こり、江戸時代の町並みのまま保存・復原されている妻籠宿(つまごじゅく)。敵の侵入を遮るために道をカギ型に曲げた枡形が中心部にみられるほか、2階部分が1階よりもせり出した出梁(だしばり)造りや格子のある民家が並び、国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定されている。
妻籠宿から約8km、馬籠峠を越えた先にあるのは木曽11宿場の最南端、馬籠宿。石畳が敷かれた坂道が続き、上から見下ろすと、木造りと白壁が特徴的な町並みの先に、中津川の町が見えてくる。宿場内には、馬籠宿で生まれた文豪・島崎藤村の代表作「夜明け前」に出てくる建物や遺跡が数多くある。
全部歩かなくてもいい街道歩き
街道歩きの楽しみ方は人それぞれ、部分的に歩いてみるだけでも十分に楽しめる。木曽路は、JR中央本線が並行して走っていて電車旅との相性も良い。徒歩と電車を組み合わせれば、街道歩きの楽しみ方はより広がる。

最も気軽なのは宿場歩き。気負いせずに、行き帰りの交通手段だけ決めて出発してみるのもいいかもしれない。観光客が少ない町並みを歩くのも静かで趣がある。時間をつくって、宿場間の旧街道を歩いたり、峠を越えたりすれば、木曽路を歩いたという充実感も味わえるはずだ。
同じ道を歩いても興味を惹かれるものは人によって違う。坂本さんに尋ねると「自分は、本道から逸れた脇道に心惹かれます。今回も、工事中で案内された迂回路が意外と面白かったりして。観光客の目が意識されていない、生活が見える道ですよね」

たまには旧街道を逸れて歩いてみるのも面白いかもしれない。
木曽路に溶け込む御嶽信仰
木曽の地を語る上で欠かせない御嶽山。独立峰としては富士山の次に高い3,067mの頂をもち、山岳信仰の聖地として知られる。

「元はとても厳しい山ですよ」と坂本さんが話すように、御嶽山は麓で百日の修行をした者しか登山が許されない修験者の山だった。江戸時代後期、覚明(かくめい)と普寛(ふかん)という二人の行者の登場により一般民衆に登山道が開かれ、さらに両行者とその弟子が御嶽信仰の普及に努めたことで、全国に信仰圏が拡大していく。

木曽を訪れた人たちが買うお土産品のひとつに、百草丸がある。御嶽山ゆかりの生薬である百草丸は、覚明と普寛両行者によって村人に製法が伝えられたと言われている。

「かつての修験者、聖(ひじり)と言われる人たちは、具合が悪くなった人が尋ねてくると、まずお祓いをして、それから山で採取した薬を出しました。民間の医者の役割も持っていたんです。各地にある伝統的な薬は、山岳信仰、山の文化の中で培われてきたものが多くあります」
円空が歩いた道
現在の岐阜県である美濃国で生まれ、全国を行脚し12万体の木仏を彫ったといわれる円空もまた木曽路を歩いた聖だ。

「円空は、霊場を回りながら仏を掘っていた廻国聖(かいこくひじり)の一人。円空以外の聖も木曽を訪れ、木仏を彫っていると考えられます。お堂や民家に置かれ、今は朽ちてしまったものも多いかもしれないです」
円空が残した神仏像「円空仏」3体を保管する等覚寺を訪れ住職に話を聞くと、かつては子どもたちが円空仏を駒代わりにして遊んだり、お寺に来た人が気軽に触ったりしていたという。木曽の人々に慕われ、木仏が生活に溶け込んでいたことが伺える。過去に盗難被害があったため、現在、等覚寺では円空仏は金庫に保管している。拝見したい場合は、事前に電話をして訪れるのが良い。
木曽路の名所「崖家づくり」
「寝覚めの床」「馬籠峠」
観光地を点々と巡る旅とは違い、時間をかけて道を歩き、土地に残る歴史や文化を自らの五感で発見できるのが街道歩きの醍醐味。旧街道を歩きながら楽しめる木曽路の名所を紹介したい。

特急しなのが停車する木曽福島駅から歩いて10分。橋上から木曽川を眺めると、木造建築群が川に迫り出した「崖家づくり」に目を奪われる。道側からは2階建てに見えた建物が、川側から見ると地下階があり3階や4階建になっていることが分かる。
木曽谷の町が賑わいをみせた時代、土地の狭い場所に何とか商店を開こうとした人たちの知恵と執念が感じられる。この崖家づくりは、木曽福島駅向かいのお土産屋や観光案内所の裏側にも見ることができる。

木曽川の流れが花崗岩の岩盤を侵食してつくり出した景勝地「寝覚めの床」。濃緑の川色と対照的な白い岩がつくりだす景観は、どこか神秘性をまとっている。浦島太郎があまりに美しい風景に、この地に住みついたという伝説があるほど、旅人の心を捕らえてきた場所だ。
妻籠宿から馬籠宿へ向かう途中、峠の手前にあるのが「男滝・女滝」。滝の近くの岩場には、多くの人が腰をかけ、滝を眺めながら身体を休めていた。少し旧街道からは外れるが、ぜひ立ち寄ってほしい。
神が宿る木
男滝・女滝からしばらく進むと、上に向かって垂直に伸びる枝をもつ「神居木(かもいぎ)」が姿を現す。この神居木は樹齢およそ300年のサワラで、天狗が腰をかけて休む場所であると信じられている。
熱心に神居木を撮影する坂本さんに話を聞くと「天狗が腰掛けると伝えられていますが、その原型は神様が宿る木だと思います。そういった木は祟られるので触っちゃいけないんです。この木の場合は近づくことも恐ろしいと思われていたみたいですね。木に対する信仰は神社の古い面影を残しています」と教えてくれた。
坂本さんの話を聞いていると、街道歩きに深みが増し、ほかの道も歩いてみたくなった。木曽路には、歴史的な背景を教えてくれる看板も所々に設置されている。休憩所にいる地元のお父さんの話や飾ってある資料も街道を知る手がかりになるはずだ。
街道歩きに安定感をみせる「ナノ」
「普段は大きいカメラを持ち歩いていて、バックパックも大きくなりがちで」と話す坂本さんが、街道歩きで背負っていたのは24Lのナノ。
「今回みたいな街道歩きや気楽に山に入る時には『ナノ』がちょうど良いですね。軽いけど作りがしっかりしていて、安定感があります」

坂本さんのよりワンサイズ小さい20Lを背負っていた私は、収納力の高さと多機能な面に惹かれていた。この日は、街道歩きのアイテムと一緒に、取材に使う小物やノートなども持ち歩いていたので、特に助かった。背中面にあるウォーターバック用ポケットが、ノートパソコンやA4書類を入れるのに適しているのも有り難かった。
私が担いでいるナノを見て坂本さんが「この色いいですね。歩いている時から気になっていました」と旅の終わりに教えてくれた。黄色だが派手な印象はなく、外部ポケットの模様など細かい部分に気が配られていて、普段から使いたくなるデザインが好印象だった。


坂本 大三郎(さかもと だいざぶろう)
千葉県生まれ。自然と人の関わりの中で生まれた芸術や芸能の発生、民間信仰、生活技術に関心を持ち東北を拠点に活動している。芸術家として、国内外の芸術祭に参加。山伏としても活動され、著書に『山伏と僕』、『山伏ノート』、『山の神々 』等がある。


坂下 佳奈(さかした かな)
2018年から2021年まで木曽町地域おこし協力隊として活動し、コワーキングスペースの立ち上げ・運営に関わる。現在はコーディネーターとして、木曽地域のプロジェクトに関わっている。
移住した古民家を改装して、素泊まりの宿「matarihouse」を運営中。